identity

 無漂白の紙の少し甘い香りと
 そしてそこに書きしたためられた昔の文章に
 気恥ずかしさとなつかしさと
 無意味な羨望とあきらめにも似た落胆が伴って

 けれど私の心はほどけていって
 少しずつ溶けていく
 そんな感覚に似ている
 ただ、それだけのことなのに

 ただ、それだけのことなのに
 それがうれしくてなつかしくてたまらない
 胸の奥底があたたかくなるような
 それでいてそれはどこかを締めつけるほど
 切ないようなものににている

 ちょうど、小銭をにぎりしめて駄菓子屋へ走っていくような感覚

 けれど、あのお店がもうなくなってしまったみたいに
 私の心も凍てついてしまっていた
 気づいたら長いこと
 こうして言葉をつむぐことを忘れてしまっていたんだね

 わけもないのに、涙が流れる感覚によく似ている
 大丈夫、今の私もそのころの私も
 あのときの私も
 たぶん、今のところは
 同じ自分のままだから

 そのままでいい、そのままでいていい
 そう信じたい、そう……誰かに、言ってほしい



※『halt』そして『identity crisis』に対する、一種の回答、かも。当初の予定とはまったく違った回答になったけれど。答えは、自分自身でしかないし、そのままの自分を認めてくれる存在が何かあれば、ソレデイイ。

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