詩句

 死よ、いつからお前の神々しさはなくなった
 生よ、いつからお前の荒々しさはなくなった

 これじゃあ若者が老いを厭うわけじゃないか
 これじゃあ壮者が自ら生を捨てるわけじゃないか

 その白いベッドの狭い部屋で、私に息を引き取れとさえ言うのか……?

 結構、結構
 いいや、人は老いて病んでいずれ死んでゆくもの
 この世に生まれてしまった以上、それは仕方のない定理
 だけども

 このプラスチックの食器は何だ?
 確かに、軽くて持ちやすいし壊れにくかろう
 だが、これでは情緒のかけらも何もないじゃあないか!

 この銀輪の乗り物は何だ?
 確かに、不自由をきたす手足には必要な移動具かもしれない
 だが、私が使うものくらい私で選ばせてくれないか?

 この大量の薬は何だ?
 確かに老いれば病には悩まされよう
 だが、そうまでして私が生きる価値は何だっていうんだ!?

 ああ
 だけど

 白く成り果てたその細い糸のなんと輝かしいことか
 深く刻まれた皺の 乾燥した皮膚の
 その笑みも憂いもなんと深いことか
 明瞭に話すのが困難であるが故の
 腹の底から搾り出された真実の言葉たちの
 なんと力に満ちたことだろう

 死よ、お前の神々しさはなくなったが
 生よ、お前の荒々しさはなくなったが

 人が生き、老いて病み、そして死に逝くことの
 なんと荘厳で美しく、素晴らしいことか



※通ってる大学が大学なもんで、老人保健施設とか実習でいったりするんですけど。なんか、どうも情緒にかけるんですよ、いろいろと。その割りに、やっぱりお年を召された方は歴史の生き証人っていうか何っていうかで。
タイトルは『しく』で変換できる字をかけてるわけです。(四句、死苦、志久、と。でも「詩句」と表現するのが一番あってる気がして)

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