見上げると ふと駅のホームを見上げると
掲示板と蛍光灯の間に
蜘蛛が巣を張っていた
女郎蜘蛛だろうか、黄色と黒の縞の見事な大きな蜘蛛だった
そのぶん、巣もずいぶんと大きかった
それにしても、どうして蜘蛛という奴はああ綺麗な幾何学模様を描けるのだろうか
フリーハンドで直線のかけない私には羨ましい限りである
完璧な正多角形を描いて蜘蛛は巣にへばりついていた
しかしまあ、妙な処に巣を張ったものだ、と思ったそのとき
プラットホームに電車がきた
見上げていた蜘蛛の巣は
びっくりするくらい
大きく 大きく 大きく揺れた
それでも蜘蛛は必死に巣にへばりついて
蜘蛛の巣も必死に
掲示板と蛍光灯の両端にへばりついていた
確かに、此処には虫がよく飛んでくる
夜になってもこんなにこうこうと明るく照らされた蛍光灯には
蛾がびっくりするくらいよく集まってくる
一匹二匹、巣に掛ったと見えるそれもあった
しかしそれだけなのか、彼女が此処に巣を張るわけは
脳裏にはまたあの大きく揺れる 蜘蛛の巣の映像が蘇る
豊富な食料と引き換えにあんな住みづらい場所を選んだのだろうか
ふと、やるせない気持ちがよぎる
だからといって
せめてこんな人目につくような場所を選ばなくてもよかろうに
それともこんな場所で馬鹿みたいに上を見上げてるのは自分くらいなものなのだろうか
やるせない気持ちのまま私は電車に乗った
電車の窓越しに空を見上げれば
白に近しい灰色が、空一面を覆っていた
外では小雨が降りしきっていた
※ここから先は黄色が受験期に書いたものがほとんどですね。このあたりから実体験を綴った物が増えてきます。
皆さんは駅でぽけーっと上を見上げる事とかありますか? タイトル……まあしゃれですね。つまり主役は最後の雨雲、と。