七夕

 駅の改札口を過ぎた突き当たり
 目にはつくけど普段は立ち止まらない、そんな場所に
 短冊飾りを無数につけた笹がたたずんでいる
 別に何の気なしにやり過ごして
 ああ、そんな季節がもう来たかとその程度のことしか
 いつもは思ってなかったのだけど
 ふと、あらためて見てみると
 なんというか、そう、まるで
 まるでこの世界の縮図みたいじゃないか
 如何に個性的な短冊を作って飾ってみても
 その願いがどんなに秀麗なる文字で描かれていようとも
 飾られてしまった以上それはこの笹の一部でしかありえないし
 そう、それ以前に願いの数が多すぎる
 つるされた願いの重さで今にもその枝は倒れてしまいそうじゃないか
 おまけに、そもそもこの枝が
 たぶん笹というよりは竹と呼ぶほうがふさわしいんだろうと言うこと自体
 『本物』の失われて久しい世の中みたいだ
 そうして、そんな考え方をしてしまった自分に不意に笑って
 粋な計らいをしてくれた駅員や
 それでもこんなものに季節を感じたりした名も知らぬ人々にも思いをはせて
 少しその前にたたずんでみる
 ここまできたら、何かを書いて残しておきたい気もするが、
 さて、私の短冊にはなんと書こう?
 けれどそれは私にそんな思いを抱かせてくれた感謝の念でも
 ましてやありきたりな願い事でもなさそうだ
 ふいに、その伝説に思いをはせてみてしまったら
 かの二人への揶揄さえ書きたくなってしまった
 だって
 年に一度しかあえなくても永久の寿命を持つ神々と
 たとえ毎日よりそえてもいずれ土に還る人間と
 どちらが長くお互いを思えるかは最早自明の理なのだから……



※投稿したのはとてつもなく季節外れな時期でしたが、思いついたのはちょうどそのシーズンです。地元の駅でほんとにこんな粋な計らいをしてくれてました。
そして、よくよく考えてみれば神様たちのほうが長い時間会えてますよね?

 戻る  ssトップへ  進む