君の歌が聞こえない
あの木犀の香りも。
もう肌の温もりは伝わって来ない……
伝えられない。
……暗い。
怖い、怖い、怖いよ――――
ああ、そうか……
これが『死』なんだね。
その暗く冷たい土の下で、
あなたは何を考えているの……?
あのオルゴールはもう鳴らない。
冷たく暗い土の下に埋めた。
あなたの『想い出』を棄てたかったから、
だから、そうした。
あのオルゴールはもう鳴らない!
けれど、何故――――
この耳には、こんなにも哀しい音が響いてくるの?
ああ、ぬくもりを失ったその体は
何故そんなにも恍惚そうに
恐怖であるはずの『死』をたたえていたの……?
わからない?
君が『それ』を望んでしまった事が!
そうね、歌を歌っていたかしら。
……哀しかったのね、たぶん。
押しつぶされてしまいそうだった、
あなたを失った『哀しみ』に――――
歌が聞こえる……哀しげな歌が……
甘く、切なく、甘美な響き。
……ありがとう。
君は、まだ……
まだ、僕のためにあの歌を歌ってくれているんだね。
何故、この口は歌いたくもに歌を口ずさむの……?
もう忘れてしまいたいのに!
私は解放されたいのに!!
青い。
切ないくらいに、ただただ、ただただ、空が青い。
でもその青さも……僕にはもう、わからない。
切ない色の空。
けれど、あなたはもう見ることの叶わない空の色。
風よ――――
この哀しみを、あの高く青い空に溶かせ!!
誰かが見降ろして嗤っているのよ、
この手を朱く染めた私を!
それとも――――
あれは、『私』それ自身?