紅い華

 特別教室棟の屋上には
 九月の快いそよ風
 手すりの上の風向計には
 オレンジ色の小さな蜘蛛
 六時間目の教室には、
 睡魔との戦いに負けた者が数名
 自習時間の教室には
 部活の始まるのを今遅しと待つ文芸部員
 静寂をたたえた秋のプールには
 緑色の不思議に澄んだ水
 この胸には虚無の如くに満たされた感覚

 『何故か』はわからない
 ……だけど

 気が付いた時には、
 僕は『何か』を求めてふわりと一瞬宙を飛んだあとだった

 中庭の煉瓦には
 不気味に妖しく美しい紅い大輪の花が咲いた事だろう



 人を傷付けるものほど
 美しいというのは本当ですか?


捨世

 傍観者の立場にのみ徹せることの
 何もできない事の快さよ!


価値観

 自分の居場所を変えただけで
 こんなにも世界の見え方は異なってくるのか……


傍観者

 その立場に立っても未だに
 誰かに見られている気がするんだ……


笑顔

 人の笑顔をみる機会が増える度
 不安になるのは何故だろう


不安

 いつからだろう……他人から構われる事が
 こんなにも恐ろしくなってしまったのは



そして……

 そのとき僕は何をして居たのだろう……
 泣いていたような気もする
 笑っていたような気もする
 出逢ったものは人が生きているが故の
 絶望だったような気もする

 内なるものは外なるものに
 外なるものは内なるものに
 愛し、愛され、包まれながら生きていく……

 望んでいたのは
 思い描いていたのは
 たぶん
 そんな世界だった気がする

 そう

 そして……今

 望んだ物はただ一つ
 願った物もただ一つ
 そして、たぶん……

 手に入れられなかったものも
 ただ、ひとつ

 けど、それでも……

 何かの使命を着実に
 こなす位に意味もなく

 生きていかなきゃ
 ならないんだよね

 僕は人間という名の
 弱い弱い生き物だから

 この手を君の赤い色に染めて
 ようやっと『答』にたどり着けたから

 僕が望んだ
 僕が願った
 僕が手に入れられなかったもの
 それは……



黄金に染まりし明けなる空に

 黄金に染まりし明けなる空に
 堪え難き歓びを祈ろう
 いつもと同じ
 平穏なる朝に
 『昨日』とは違う
 一日を願おう

 今なお暗き西の空に
 夜の平穏をもたらしてくれた
 女神に祈ろう
 この『歓び』を
 この『哀しみ』を
 明けなる空に
 静かに微笑むその月に

 『歓び』は一日が始まるが故の
 『哀しみ』も一日が始まるが故の
 いつもと同じ
 どこも違わぬ
 『一日』が始まるが故の……

 ……小鳥の声が小さくなってゆく



光と闇と影と嘘

 光と闇と影と嘘
 見えしは明滅
 感ずは混濁、いや渾沌
 酷似したるは
 原始の世界
 光と闇と影と嘘
 ただただ聴こゆは鬨の声
 光と闇と影と嘘
 鏡に映るは
 在りし日の面影

 どこかで知ってる
 この感覚を
 『自分自身』が混乱している
 この感覚を、その場所を
 過去と、未来と、その狭間……

 光と闇と影と嘘
 血と焔と破壊と殺戮
 過去と未来とその狭間

 命は死に絶え
 虚空は血に染む……



真実

 では、貴方の見えているもの聴こえている音は
 確実にこの世界に存在しているのですね?


運命

 だとしたら『未来』という名の『路』は
 予め定められているものなのでしょうか


 どうしてこれほどまでに不確実な癖に
 残酷な物が存在するんだ!!


定理

 次の文は誤りである
 前の文は正しい


 私の進む道は
 先の見えないほどに曲がりくねったもの


 取っ手のない扉を
 どうやって外から開けろって言うんだ!
 ……僕にも中に何があるかは
 よくわからないっていうのに……


 永遠の静寂


変化

 時間が始まって以来の
 唯一の一定なるもの


祈り

 常に聞き届けられるもの
 ただし、"Yes"の答のなかなか返ってこないもの


滅亡

 もし生まれてさえこなければ
 幸せだったかもしれないからね


存在理由

 でも……知りたい



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