或は十五と謂う年齢は若いのであろうか。
 所詮、感覚の問題である。
 しかし此の時代においては、其の年齢ならば充分『少女』と呼べた。
「ラレビル・フォ・メアード様!」
 呼ばれて。
 彼女はふっと振り返った。
「……其の名はやめてと何度も謂った筈だけど。ナルス・テスで構わないわよ、前みたく」
「そうもいかないよ」
 其の少年は呟いた。
 ああ、なんと美しい漆黒の瞳。
 黒金の剣ですら。
 此の輝きは放てない。
「ねえ、術士名、もらえたんでしょ?何だった?」
 其の問い掛けに。
 ふと彼は言葉を詰まらせた。
(謂いたく無い、か……)
 彼女がそう想いかけた時。
「……妙な名なんだ」
 伏目がちに、彼は謂った。
「え?」
 想わず。彼女は問いただす。
「……ラウ・フォ・ディース。『戦起し』なんて、縁起でも無い名」
 今度は、開き直った様に肩を竦めて。
 彼は、謂った。
「『平和の結実』、って思えばいいんじゃない? ……知ってる?  術士名ってね、『逆意』の方が大きな意味を持つの」
 柔らかい表情。
 優しそうな、瞳。
「……君は違う」
 其れは叫ぶのにすら似た行為だった。
「同じよ、あたしだって。『自由の夢』、と謂えば確かに聞こえはいいけど。でも結局其れって『現実と謂う名の束縛』でしかないのよ?」
 『彼女』が。
 本音を語れる人間は、自分以外に一体あと幾人なのであろう。
 其れとも――『あのひと』を抜けば、自分独りだけしか居ないのか――…
「そう想ってる?」
 其れでも。
 彼は彼女にそう訊ねた。
 だって、彼女は――
「実際、今のあたしがそうじゃない――ねぇ、あたしに過去は無いのよ……今となってはあたしの過去は存在してはいけないの……其れがどんなに輝かしくとも、未来の先に待って居るものは常に変わらないって謂うのに……」
 終わりしか無い。
 終わるしか無い。
 終わりの無い未来は、何処にも無い。
「……祭りの神輿が血まみれじゃ、誰も掲げてはくれないよ。……哀しいけど」
 慰めて、欲しかったのかも知れないけれど。
 彼女ほど、人間は出来ていない。
 彼女より、年下なのだ、自分は。
 人生経験だって、全然少ない。
 悲しいが。
 彼には其れしか、謂えなかった。
「ね、其れが現実。だからあたしの名は『現実と謂う名の束縛』――」
 此れは仕方の無い事。
 だからせめて、毅然と笑う――……


 即位前夜。ラレビル・フォ・メアード15歳の春。彼女は此の年の秋、享年する――と、言い伝えられては居る。


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