ああ、私はいったい誰なのだ――


 そのとき人々は、自国が滅亡の危機に晒されている等とは知る由も無かった。
「リャオ、リャオチェン。何処にいるの?」
 甘い、柔らかな声が木霊する。かつては、ここも花が咲き乱れ、緑がほこる、さながら楽園のような場所だった。人々は、この城での人間関係に疲れたとき、この緑たちに癒されに来ていた。しかし――いま。ここでは大変な政変が起こり、もはやここ、即ち宮廷の中庭を、管理しようというものさえいない。
 だが、その声がしただけで張り詰めた、紅暗色の空気が爽やかな風に染められていくようだった。
「どうかなさいましたか、シェイファ様」
 その呼び声に答えた、リャオチェン、という名を持つそのもの。そのものは、見事な体躯の漢だった。背は高く、隆と筋肉がつき、腰にさした剣と共に在るだけで、風格がある。ましてその者の馬上に在ると来たるや、語るまでもない。体躯的にも年齢的にもどう見てもシェイファと声を掛けられたものの方が下に見えるが、しかしその者は王の子であった。即ち、己が主の令嬢である。
「ハヤト討ちにまた出かけるのでしょう? せめて一目あっておきたくて」
「私は方戍(かたもり)です。役目を果たすは当然こと。それが王への忠義でも御座いましょう」
 シェイファの子供っぽい問いにも、しっかりと答える。それは、彼女がわが主の子で在るからこそ。いいや、それ以外の理由もあるかもしれない――
 方戍、とは国の八方を外的から守る役目を担う国の勅使である。リャオチェンが命ぜられたのは、離(り)国の果て、南方の守だった。南方にて国境を侵犯してくるハヤトたちは王に従わず、国に従わず、わが国の民たちから略奪さえする。そんな者達を狩り、時には自国に帰依させるのが方戍の仕事である。
「ねえ、あれを見せて。蛍火を」
 シェイファの言葉にリャオチェンは優しく笑った。天子といえど子は子である。
 無言で己の剣を鞘から引き抜くと、切っ先から、一つ、二つと焔が生まれる。蛍火というのは言い得て妙であったが、それを続けた剣は焔の大きさを増し、最後には業火を発するようになる。火が大きくなり過ぎぬ内にリャオチェンは剣を鞘に戻した。
「きれいね……。早く、戻ってきてね……」
「勿論ですよ、シェファ様」
 にっこりと笑っている心の内で、リャオチェンは強く否定していた。
 ――これは、恋心でなどないと。
 剣を振るうしか能のない自分のような無骨な方戍ごときが、畏れ多くも天子様へ想いなど抱いてはいけないのだと。
「大丈夫……あなたには朱雀がついているもの。またこの地へ戻ってきてくれますよね?」
「勿論ですよ、シェイファ様。どうなさられたのですか?」
「いいえ、そんなことはありませんよ大丈夫です。……ただ、お義母様が」
 いやな予感が、するのだ。どうしようもない、胸騒ぎが。
「朱雀の君! こんな処にいたのですか」
「スーレン様……」
 そんな二人の会話を割って入った者がいた。他ならぬ、シェイファ自身が口にしかけた彼女の義母であった。スーレンというのがその人の名である。因みに朱雀の君、というのはリャオチェンの字である。南の方を戍り、炎の剣を操り、今は髷に結わえられているが赤い髪を持つ彼には相応しい名だろう。尤も、その様な畏れ多い名、リャオチェン自身はあまり好ましく思っていなかったのだが。
「何をしているのです? 他の者は皆、とうに出立の準備が整っておりますよ。シェイファ、あなたもこんな処に居たの……すぐに部屋に戻りなさい。今となっては宮廷とてそう安全とは言い切れぬ場所なのですよ?」
 柘榴のような唇を動かし。そくささとスーレンは去っていった。薔薇が歩いているようだった。どこまでも華麗で美しいが、絶えがたい棘がある。


「国が皆乱れたのは、あなたのせいでしょう」
「シェイファ様! 言葉が過ぎます! 仮にもあのお方は国婦であられるのですよ?」
 スーレンの姿が見えなくなったところで吐き棄てたシェイファの言葉を、リャオチェンはたしなめた。気持ちは……判らなくもない。しかし、彼女が王の妃である事に変わりはない。たとえ側室であろうとも、そのような身分というのは、それだけで貴いものである。リャオチェンはそうも思っていた。
「でも、お父様は変わられてしまった! この国も変わってしまった!! すべては、あの人が此処に来てからじゃない!」
「シェイファ様……」
 確かに、賢王と臣下から賛されていた王も、スーレンを娶ってから、随分人が変わられてしまった。以前は民が飢えれば倉を空け渡し、民に社を立てさせることでその手当てを渡し、民衆達の事を思いやる良き王であった。しかし今は、スーレンの進言で税を重くしてゆく一方で、自らは酒池肉林の日々に浸っている。以前の王ならば考えられない事であった。傾国の美女という言葉があるが、スーレンは正しくそれだった。市街では、多くの反乱が起こり始めてきている。
「王の子といっても、私は側室の子だもの……」
 そんな賢王であっても、正室にはすぐに先立たれ、生まれた子は側室の、しかも女児のこのシェイファだけだった。それでも王は彼女の事を大切にしてくださったが、今ではスーレンのせいであまり近づけない。勿論スーレンも側室ではあるが、しかし、王の子とはいっても側室のしかも女児の者であっては、王や、その隣に常に居るスーレンに進言をするなどというのは難しい。ただでさえ自分は二人よりも年下なのだ。自分の立場がどうしようもなく弱くて、厭だった。
「シェイファ様……」
 少し。彼女の気持ちが判った。不安なのだ、此処に一人残されるのが。
「大丈夫ですよ、あなたには朱雀がついている……。だからお願い、早く戻ってきて」
 愛らしかった。愛おしかった。できるものなら、抱き締めたかった。けれど、そんな畏れ多い真似、できるはずもなかった。
「勿論ですよ、シェイファ様。そのためには早く行かねば。皆、出立の用意が整ったようですから」
「ご武運を……」
 にっこりと笑って。リャオチェンはその場を行き過ぎた。それが、お互いを見る最後になるとは、此の時はどちらも思っていなかった。スーレンの策は、此の時もう既に、始まっていたのである。


 なんなのだろう。  胸騒ぎがする。  いいや、この自らが率いる軍隊の進行の状況が芳しくないわけではない。むしろ、それは驚く位いつものとおり順調に、いや、いつも以上に順調にいっている。
「リャオチェン様!!」
 自分はここの指揮官である。戦況の報告か。しかし――その慌て方が尋常でない。
「どうした!?」
「それが、シェン王様が―― !!」
「!!」
 即ち――謀反。
 その言葉がリャオチェンの頭を掠めていた。
「第三、第四部隊は現状を維持、そのまま凌ぎつつ時期を見計らい一時撤退せよ!! その他は可能な限りすぐに退け!!」
 あるまじき行動だ。はっきり言って、これは指揮官としてあるまじき行動だ。しかし――どうしても、気になったのだ。
 宮中に、独り残してきたあの雪花の如き少女の事が。
 彼は、赫馬につながれた手綱を引いた。


 焔が。あたり一面をねめまわしていた。朱雀は、このような炎を見たときどう思うのであろう。このような、人の血に穢れた焔を。
「スーレンッ!!」
 不躾にも、部屋の中に乗り付け。馬上の侭、リャオチェンは思わず叫んでいた。
「あら、思ったより早く帰ってきてしまったわね」
 興奮しているリャオチェンとは裏腹に、スーレンは冷ややかに答えた。
「ショウチェン、フーウェイ、ヤーリァオ、トイチェン……」
 みな、数日前まで共に杯を酌み交わしていた己の友であった。
 みな――今は、息絶えていると見えた。
「貴様がやった事か!? 答えよ!!」
 己の愛馬に少々ばかりの無理強いをさせてこの地に舞い戻ってきた時には、もう遅かった。
「私が直接手を下した訳ではないけれど……まぁ、否定はしないわね」
「王はどうなさられた!? シェイファ様は!? ユイシア様は!?」
 ユイシアとは、シェイファの母の名である。
「教えてあげましょうか?」
「何?」
「私はね……この国それ自体を憎んでいるの。この王家に流れる血の一滴残らずさえ、この宮廷の塵ひとつでさえ、ね」
 冷淡に冷淡に。何処までも冷淡に。スーレンは答えた。
「それが貴様の答えかっ!?」
 くすり、とスーレンは嘲笑った。
「熱い男ね……」
 す、と音もなくリャオチェンの許に歩み寄り、その肌を細い白魚のような指でなぜる。冷たかった。死人の手の如き冷たさだった。人間の温かみが一切なかった。
「お前は、好い漢過ぎるな。思わず欲しくなってしまうではないか」
「私が仕えるのは王だけだ、誰が貴様になどつくものかっ!!」
 迷わず。リャオチェンは刃を抜いた。燎火は炎となってスーレンの許に届いた。が。
「やはりますます欲しくなる……。でもね、そんな事をしてしまっては、私が不利益を被り兼ねない。先見というのも時には大事なのだよ。明日の利益の為にも、今日の快楽を我慢する事はね。リャオチェン、だから私はお前からその名とその体を奪っておこう」
 その手は――動いた。青白き輝きを以って。
「ぞくぞくするわ……あなたが憎くて憎くてたまらなくてね。ふふ、ここで切り刻んであげる事も可能だけど……。ああ、彼方は本当にいい漢ね。だから、味わわせてあげる……わたし達が味わった苦しみを、ね」
 艶めかしき紅き唇を、笑みの形にゆがませて。
「妖術か!?」
 気づいた時には――手遅れだった。彼女の姿は霧散していた。
 そう、その文字通り。
「霧……?」
 霧のようなものが、ふと己のそばを掠めたような気がしたのだ。
「覚えておおき……わたし達は、この国によってこそ滅ぼされた」
 死者の如き冷たき声が、木霊する。
「これでわたしの気持ちも少しはわかるだろう……?」
 そして――耐えがたき感覚に、思わずリャオチェンは倒れ付していた。


「此処は……どこだ」
 目がさめ、気づくとそこは見知らぬ場所だった。いや?
(此処は……!)
 南の方離国の果ての地、己が最後にハヤト討ちを行った、まさにその場所であった。どうやら自分は、スーレンの妖術によってそんな処にまで飛ばされてしまったらしい。
「ホーマー!!」
 聞き覚えのある嘶きと蹄の音に、思わず興奮した。己の愛馬がそこにいた。不思議な偶然。どうやら、自分とともにこの地へ飛ばされたらしい。
「行くぞ!!」
 それでも、地を自在に駆け抜けられると思えば、これは心強い。馬に跨り、北の方角を目指す。スーレンの策を停めに、己の国を護る為に、再びイーチウヘ、都へ戻らねば。


(迷った、か……?)
 さて、自分は先日と同じ急ぎ道を使ったはずなのだが。夜の森と深い霧が、どうやら己をかどわしたらしい。かすかな音に咄嗟に反応し。剣に手を掛けたと思った瞬間には、既に刃は薙ぎ払われていた。耳を澄ます。足音。蹄の音。弦の音。その数――二十三。
「夜盗の類か……。ホーマー、行くぞっ!」
 手綱をくると同時。剣は、鮮やかな太刀筋を描いた。だが。
(焔が出せぬ……!!)
 『リャオチェン』の象徴、剣の燎火が――
「おのれスーレン……名を奪うとはそういう事かっ!!」
 しかし吐き棄てた後で、リャオチェンはふと疑問に思った。
 ――では、己の体を奪う、とは?
「くそっ!!」
 思わず吐き棄てる。その力を失ったせいか、いつになく剣が重たい。普段ならこんな事なかった。それに、剣が重たい割には動きがいつもより速い。おまけに、己にしては珍しく目測をよく見誤るのだ。自慢ではないが、夜目はきく。だのに今は、ほんの一寸の差が読めない。戦場に於いては、それさえ命取りになるというのに。
 ふぁさり。
 頭上を、かすかに風が掠める。これも、読み違い。風が通るとともに、髪紐が斬られた。咄嗟に除けた際の屈み方が足りなかったらしい。纏めあげられていた髪が、一挙に重力と風にしたがって広がる。
 思わずひとつ唇をかみ締める。たかが夜盗如きにここまでの屈辱を味わわされるとは。
 邪魔になる上、夜中に目立つ色をしているが、だからといって纏め直すわけにもいかぬ。仕方なく、思い通りにならぬ剣を振るい続け。
 それでも夜盗達は確実に一人二人と、地に臥していた。


 疲れた。なんだか、妙に疲れた。結局、自分は何もできなかった。
 いっそ、あのまま戦場に残ってしっかりと己の役割を果たしておくべきだった。
 いくらか、馬を走らせ。やがて、一つの泉を見つける。泉は、空に耀く白金の櫛のごとき月を映し出し。夜の木々と星空とを映し出し。とにかく……静かだった。
 一口、水が飲みたい。それに、服にべとりとついたこの返り血もどうにかせねば。血に染むなどとうに慣れたと思っていたのに、いまは如何してもそれが気分が悪い。
「な――!」
 思わず、そんなはずもないのに後ろを振り返る。一瞬、泉の水鏡に映し出されたその姿に、何かの間違いだろう、と思って。そして、状況が飲み込めるうちに、気を失いそうにさえなる。
 即ち、名を奪うとは、己が体を奪うとは――
 正直、この状況下今日は野宿でもしようかと思っていた。だが、何故かはよくわからない。それでも、人のいる場所が無性に恋しくなって。自棄酒でも呷りたくて。そして……
『彼女』は現れた。
 例の、ゴロツキどもの集り場であるあの酒場に――


 日は沈み、月は昇り、そして灯はともる。
 このしつこい男は何処までもついてくる。また一人で眠れない。だが、静か過ぎる一人の夜を過ごさずにすむ分、それはマシかも知れない――とさえも思う。
「アイデンティティ、という言葉を知ってる?」
 夕餉の折り、唐突にリェンリーはリンに訊ねた。
「あい……何だと? 西域の言葉か?」
 勿論そんな言葉、リンは知る由もない。
「そ。いや、正確には違うかな? "identity“即ち、『自己同一性』」
「なに?」
「つまりね、例えば僕は君を『リン』だと認識している。その一方で君自身も、自分はリンだと認識している」
「私はまだそう呼ばれる事を認めたわけでは――」
「ところが、だ。ぼく、即ち『リェンリーにとっての』リンと『リンにとっての』リンとは必ずしも合致している訳がない。誰にだって、秘密の部分というのはひとつふたつ抱えている訳だからね。だから、即ちそれは他者の認知している自分と、自己の認知している自分が同一である事を刺す言葉」
 なんだか、妙にぐさりときた。
「馬鹿馬鹿しいと思わない? 何でそんな事をそう、考える事自体が無駄なんだ。他者との関係の和の中において、自己を調節する事はそんな必要?」
 今、自分は『リン』であって、『リャオチェン』などではないのだ、と……思い知らされた気がした。
「お前は、『理性』なのだろう?」
 理性とは、即ち他者との関係の調節に働くものではないのか、と。リンは尋ねた。
「本当に聡い人だね、君は」
 聡い人は大好きだよ、と。猫の様な瞳で付け足す。
「君なら、スーレンと対峙する事も可能かもしれないね。聡く涼やかなる、そして清らなる『リン』ならば、だけど……」
 リェンリーは口の端を吊り上げた。思わず、リンの瞳孔がかっと開く。
 此奴は――『何か』を知っている。


「蛍火が……出せぬな、やはり」
 幾度繰り返しても無駄な事。己はあの策士によって国を奪われ、友を奪われ、愛すべきものも、あまつさえ己の名と体さえ奪われてしまったのだから。残されたのは愛馬のホーマー、ただそれだけ。
 リンは首を横に振った。
 皆が寝静まる頃。リェンリーの見ていないところで、剣を抜いてその切っ先に燎火が起こるかどうかを試してみていたのだが――やはり、恐れていたとおり無駄な事の様だった。
「だがな、スーレン。私は必ず貴様の許に辿り着いてその首を討ち取って見せるぞ……」
 名前を奪うとは、即ち己の剣から燎火を取り上げる事。体を奪うとは、即ち――
(これで私の気持ちも少しはわかるだろう……?)
 声が。あの冷たき声が。リンの、いや、リャオチェンの心の内に木霊していた。
 友は死んだ。仕えるべき王も。愛すべき少女は、生きているのか死んでいるかもわからない。
「リャオチェン……お前は何処に居るのだ?」
 目を閉じれば、すぐにも浮かぶ光景。
 胡弓の音。白銀の月。無骨だが気の知れた男達。労いの言葉。交わされる杯。夜半になっても、耐えぬ灯り。小競り合い。そこから生まれる新たな友。
 いま、この空には星が降っている。
「私は……」
 誰だというのだ。


  月明かりの許には己を失った女……
  そして、光の届かぬ石壁の闇の中には……


 それは、処刑されたものたちの行き着く先。外界から隔離された石壁には、もはやただの肉の塊としか呼べぬものが散らかり、耐えようの無い血の匂いが、漂っていた。あたかも、花の蜜の如くに。滴る血だまり。そこには、まるでその血を己が者の如く身に纏い、裸体に滴らせ、そして――その血を口元へと運ぶ女が一人。
「……あーあ、無理しちゃって。そもそも、その力はそう言う使い方をする物ではないだろう?」
 批判的な、声がした。男の物の筈なのに、覇気はあまり無い高い声。
「おまえは……」
 対照的にこちらは、やや低めで女性的な艶めかしい声。それでいて高圧的な声。
「リェンリー。よりにもよってそんな名を名乗るとはな」
 ふっと、と息を漏らし。女は――スーレンは呟いた。
 名とは、即ち己が属性。
 リェンリーとは、即ち『怜悧』。そして、スーレンとは……
「僕は『理性』だもの。自分では悪い名ではないと思ってるけど?」
「何をしにきた……その分だと私の許に戻る気はないようだな」
 柘榴が割れる。毒々しい紅い果汁を滴らせ。
「当り前だろ? 僕は即ち理性そのもの。本能的な行動をとろうとする君とは相容れない」
 くすり、と笑う。そもそも、国取りなんて手間の掛かるだけの、意味の無い事だ。
「面白い女に出会ったよ……君ほどではないけど、とても綺麗な人でね。それで居てとても熱い感じの人だった。まるで」
 そう、まるで――
「炎のような、ね」
 冷たい瞳が、互いを見詰め合っている。
「……遠まわしな事を」
「案外、僕よりも『彼女』のほうが君に近しいね。だからこそ僕は、君の元を離れたわけだし」
「去ね」
「仰らずとも」
 そして。霧の如く、彼は消えた。
「けれど、僕なしで果たして君の望みは叶えられるかな?」
 木霊する声。
「私はただの『スーレン』だ。ただの念だけで動きつづける存在」
 最早何も存在せぬ虚空に向かい。彼女は呟いた。


  軋み続ける、焔の環。
  運命の輪の廻りさえ変える、地獄の業火。



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