無機質だった鼠色のアスファルトの歩道。
それが一面、散る花と同じ薄紅に染まる。
何と、美しいのだろう。
けれど。
そんな事を想いながら何本もある街路樹の桜の、ただ一本の木だけを彼女はじっと見つめていた。
サクラの木。
……自分から『おにいちゃん』を奪った、サクラの木。
雨に滑った路面で、居眠り運転をしていた車を避けきれずに――
彼はバイクごと、此のサクラの木にぶつかって死んだ。
花の他に供えるのは、彼のお気に入りの銘柄の煙草とウイスキー。
そして、もう背負う事の無いであろう中学校の指定のバッグから出てくるのは、どこか事務的な雰囲気の隠し切れない、高校の校名の入った封筒。
……逝ってしまった。
彼は希望の学校に受かった自分を祝う事無く、此の世を去ってしまった。
「お兄ちゃん……」
ふと突然に涙を流して。
彼女は小さく、そう呟いた。
……此の複雑な思いばかりが交錯する、春という残酷な季節を少しだけ恨みながら
※これで桜の詩(と言うかSSか)はいくつめでしょうか……。4月のキーワード『サクラ』・『バック』あとはたしか『鼠色』もかな? 電撃のダブルキャスト(上・下とも)を立ち読みしきるくらい、足腰と目が丈夫だったあの頃。