sigh

 私は無力な私が嫌いで
 何かに抗っていたいだけかもしれなくて
 たくさんの人が遠い遠い海の向こうで
 きっとたくさん死んでいるし
 死んでいくんだろうと思うと
 惨めさに涙さえこみ上げてきそうで
 けれど、やっぱりため息くらいしか出るものはなくって

 人間って、どうしてこんなに『これ以上』を求めてしまうんだろう……

 過去に縋り付きたいとここまで思うわりに
 だけど未来は焦がれてやまないし
 それが極彩色であることさえ求めてしまう

 まったくほんとうに
 この自分の含めたこの種と言うのは
 なんとおろかなことだろう

 やっぱり、ため息くらいしかこの身から出てくるものはない



臆病者

 所詮、私は本当の戦争なんて知らない
 ただ、火垂るの墓を見たら涙があふれてとまらなかったし
 長崎の原爆記念館や沖縄のガマに行ったときは粛然とした気持ちと
 いいようのない畏怖を感じたし
 そのわりにガンダムや銀英伝を見ては興奮したりもする

 でも戦争がじっさいどんなもので
 どうしてそんなものが起こるのかあれこれ考えてたら
 どうあがいたって絶望的な答えばかりが浮かんできた

 そもそも生命(いのち)がこの世に生まれたときから
 この地球(せかい)はたたかいばかりを繰り返してきた
(生きることは食べること食べることは戦うこと戦うことは殺すこと
 すなわち生きることは殺すこと、死ぬことは負けること……?)

 それでも
 どうあがいたって私は戦いそのものが恐ろしいし
 人が死ぬと言うそのことが恐ろしくってたまらない

 ああ、だからかもしれない
 私は人の死を、それを見据えることを
 こんなにも実は心の奥底から恐れてる臆病者だから
 せめてそれの救える、それの看取れる
 そんなものになりたいと願ってしまったのは



反逆者

 私は無力だ
 私は無力だ
 私は無力だ
 私は無力だ

 馬鹿なことをしようとしている指導者たちを
 諭すどころかコンタクトを取ることさえできない

 私は非力だ
 私は非力だ
 私は非力だ

 どんなに焦ったところで
 ロクな効果も期待できない
 こんなちっぽけな反逆しかできない

 私はおろかだ
 私はおろかだ

 それでも、私は抗いたいと思う
 私は私の戦いをしたいと思う

 ――私には、奔りだす世界を止めることなんてできないけど

 それでも
 武器を持たない戦いは
 ボタンひとつで決着のつく
 『暴力』よりはずっとマシだと思うから

 だから私は
 私なりのこのちっぽけな反逆を
 『言葉』を以ってしようじゃないか



タ ス ケ テ

 ああ人が死ぬ人が死ぬ人が死ぬ
 遠い遠い海の向こうで人が死ぬ
 私は無力でそれをとめる事などできなくて
 そして今この瞬間にもきっと多くの人々は死んでいって
 だけれどたくさんの命も
 今この瞬間にこの世に誕生しているんだろうけど
 
 ああ、人が死ぬ人が死ぬ人が死ぬ
 別な人間の些細なエゴで
 生きてゆくのに精一杯の人々から

 ああ人が死ぬ人が死ぬ人が死ぬ
 いま自分が殺されたと言うことさえわからずに
 兵士が 子どもが 女が 老人が

 あの大きい目を見開いて
 どこかうつろで、だけどうらめしがまそうな、こちらを見る目で

 そんなにたくさんの人が死ぬ……



 なんだか、ペンをとってもすぐにどこかで止まってしまう

「そんなことはない」
「それは偽善だ」
「理想を追うことの何が悪い」
「こんな、ちっぽけな反逆しかできない」
「抗うこと、それ自体にこそ意味はないのか?」
「人はいずれ死ぬもの、そして人類などいっそ滅んだほうがこの星のため」
「けれど、それを謂えるのは、言葉にできてそれを伝えてそれを考えることができるのは」 「人間だけだ、何と言う矛盾」
「誰だって死にたくなどない」
「だけれど人は上を目指したがるもの、たとえ命を犠牲にしても」
「それが他人のものであっても?」
「結局そうして犠牲と言うのは積み重なっていくもの」
「連鎖はどこかで断ち切ることはできないのか!? 憎しみの連鎖と、欲の連鎖を!!」
「所詮、魔法の杖などこの世には存在しないし」
「そのくせ自分たちはそれを求めてやまないだろう?」
「結局みんな自分が一番かわいいし、かわいそうなんじゃないか」
「でも、助け合いの心って言うのは大切だと思うしキレイなものだろう?」 「少なくとも自分はそう思うし、そう思いたいから?」
「だけどもどこかでそれを偽善的で気持ち悪いと思うところがないわけでないのは、確かな事実……」
「結局、だけど」
「こんなにこんなにも、うちから細かい細かい言葉はあふれてくるのに」
「それはひとつとしてまとまりを見せないし」
「そもそも自分は何のアクションも起こせないだなんて!!」

 言葉ばかりが色々と渦巻いて
 とおい とおい 哀しみが
 なんだか自分の中をふっと、とおり抜けていったみたいで

 痛いんじゃない、ただ
 (から)っぽで、(から)っぽで、苦しくってたまらない

 世界ではそんな、あまりに馬鹿馬鹿しいことが起ころうとしているのに
 涙を流すことさえできない輪からあまりに外れたところにいる自分が
 どこかみじめで笑えてさえきて
 だけれど私は戦いをおそれる臆病者で

 ただもう
 (から)っぽで、(から)っぽで、苦しくってたまらない……



past

 気づいてみればそれはもう、とうの昔に終わったことらしくて
 あくまであまりに遠い遠い海の向こうの話で
 こちらではもう過ぎたこと終わったことだからって誰も見向きもしないらしい
 かくも世の進みは速いらしくてこの流れについていけということらしい

 残念ながら
 私にはそれを逆流して泳ぐ力はないようだ
 流されるしかないようだ
 実際、自分は抗いたいが戻りたいわけではないから
 それはそれで、仕方のないことのようだ

 けれど、なんだかそれは そこのことは
 すごくすごく恐ろしいことのように思えてならない
 瓦礫の山に一人取り残されたみたいな気分だ

 戦いというものは戦うと言うことそれ自体は
 何かとてつもなく神聖ですらあった儀式のようなものでもある気がするのだが
 それはあまりに昔の話で
 そもそも『あれ』はもうすでに戦いと呼べるものでもないようだ
 命のやり取りのなかで磨かれる魂などもうないらしい

 なのにいまさら美化をする?
 終わってしまえば
 それですべてが片付いてしまっている……?

 そんなにも簡単に、自分が口にした台詞を
 覆すことだってできるのか……?

 なんて恐ろしい世の中なのだろう
 自分のそのちっぽけな言葉にだって
 その些末な叫びにだって
 わずかなわずかな本当にごくわずかな
 だけれど、それでもそれは『言葉』であった以上
 小さくとも、わずかだろうとも力は備わっていただろうコトに
 そんなことにさえ気づいていなかっただなんて

 なのにそれらは
 けっきょく、『らしい』や『ようだ』でしか
 自分には語れないことらしいようだなんて……



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