――I'm am good as dead.

 汽車の揺れはゆりかごを思わせる。
 目を閉じて、その感覚に身を任せる。
 無音の闇。
 遠くから耳鳴りがする予兆を感じて奥歯をかみしめて身構えるが杞憂だったようだ。
 目を開けて、ため息をひとつ。
 赤い瞳は憧憬するように窓の外を眺める。
 実際にその身に映しているのはただの暗闇。
 ああ、世界はとても醜い。
 世界はこんなにも美しい。
 二つの思いが同時にわき上がる。
 切り取られた景色が移ろいゆく。
「それでも世界は色彩に満ちている」
 視線というか、気配というか。
 ボクがじっと彼女のことを見ているのに気づいたのだろう、彼女はボクの目をまっすぐ見つめて答える。宝石の様な赤。
「なら、君はどう答える?」
 音の無い世界。快適なちっぽけな世界。
 彼女と出会ってからの僕の最大の関心ごとはひとつだけ。
「何に?」
「君が僕のことをどう思うか、とたとえばそうきかれたら」
 ふむ、とひとつ悩むような動作。答えがはじめっから決まっているときの動作。彼女の小さないたずら心の垣間見える、僕の好きな動作。と同時に彼女の師という人にごく淡い尊敬と嫉妬を覚えざるを得ない動作。
「"As Good As It Gets"」
 ホント、君はずるいね……。ボクは歓喜と絶望の、どちらを味わえばいい?
 君を知りたいのか知りたくないのか、
 僕を知って欲しいのか知ってほしくないのか。
 どうしようもないほどもてあましてる感情があって、でもたぶん、
 結局求めなくなってしまったら、
 死んだも同然
 になってしまうのかなぁ。

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