053.自分の靴のサイズで物事を計る
――All men measure things in the size of their own shoes.
切欠は、何気ない一言。
なぜそんなことをいう気になったか話の流れは忘れてしまったけど身長について言及されたときのこと。
わたしの背は、女にしては、それもスーラの出身の人間にしては比較的高い部類に入るとおもう。
だから、私とほぼ同じくらいの高さで声のする彼の身長は、人種と年齢を考慮してもやや低いのではないだろうか。そういったことを、彼に実際に言った。たぶん、もっと攻撃的でけれどさして興味はないといったような言葉で。
「これでも5フィート7あるから、そんなにいうほど低いとは思わないけど」
珍しく反論の言葉に彼らしくない感情が混じっている気がして、そちらのほうに気を取られそうになり(今にして思えばあれは何かしらの彼の矜持に触れたのかもしれない)
けれどそこで奇妙な引っ掛かりを感じる。きき間違いではない。そして、理解する。
「……フィートでいわれてもわからん」
耳慣れない単位だっただけだ。
返答までの時間は約5秒。ただ、おそらく計算に費やしたのはその半分以下の時間だろう。
「1.7018 メートル」
卓上の計算の殴り書きのように投げやりで不器用でどうでもいいといったような答えと口調。
なぜか、ため息が漏れる。違う、そうじゃない、そういうことがいいたかったんじゃない。……たぶん。
この状況にこそふさわしい気がして、ふと脳裏に浮かんだ言葉を口にした。
「ひとはみな、自分の靴のサイズで物事を計る」
「それも、師という人から教えてもらった言葉?」
ため息。次にそれをもらしたのは、どちらだったろう。
「ああ」
「ボクの国にもそんな感じのことわざがあったよ」
「どんな?」
見えても無い 彼の顔が にやりと 嗤う の が 克 明 に 見 え た
「"Alle Maenner messen die Dinge in der Groesse ihrer eigenen Schuhe."」
そんな一言にも、自分の基準に当てはめて、彼を計ろうとしていたと、そのうえ、自分の中にある『ものさし』がゆがんでいたと思い知らされる。
知らない国の諺を思い出す
人はみな
自分の靴のサイズで物事を計る