光を失った。
 それはどうしようもない真実。
 突きつけられた真実はわたしからいろんなものを奪っていって
 同時に、いろんなものが降りかかってきて
 失ったものもあったけれど、いくつか得たものもあって
 それが今のわたしを形作っていて……

 ――わたしが、光を失ってすぐの話。

 光を失ったわたしに、『門番』の仕事なんてできるはずもなかった。
 かといって、家に戻るわけにもいかない。
 家族は、わたしが養わなければならない。病弱な弟。癩を病んで足萎えになった父。父の病のせいで、わたしは出世の機会を失った。そのことを憎んでいないといったら嘘にはなるけど、彼の剣の腕は確かだったし、それを女のわたしに教えてくれたことには感謝している。
 生まれてすぐにどこかにもらわれていった、名前も顔も知らない姉は頼れない。親戚たちも、似たようなものだ。
 だから――光を失ってしまったわたしを必要としてくれていたものがいたことは、ひどくうれしかった。
 実際、あの人はわたしに、光を失ったわたしに、もしかしたらそれまでよりもずっと人間らしい暮らしをさせてくれた。食べ物にも、着るものにも不自由しない暮らし。満ち足りているだけじゃない、学ぶことさえ赦してくれた。歴史も地理も語学も政治でさえ。本当に……馬鹿な人。
 だけど、甘ったるい理想ばかりのあの人の言葉でさえ、そのときは心地よかった。
 ――それと矛盾した行動を、わたしがとらなければならないとしても。

 その人はずいぶんとよいご身分のお生まれの方で
(わたしみたいな卑しい家の出には一生縁がないと思っていたお名前です)
 だけれど、今のスーラの現状には満足されていないご様子で
(わたしのような暮らしなどきっとしたこともないでしょうに)
 今の政治さえ壊したいご様子で、だけど理想の言葉を振りかざすだけではうまくいかなくて、たぶんそんな自分が嫌いだった人で
(ここだけは、今でもひどく共感できるし、何とかしたかった……とさえ思う)
 元門番としての剣の腕と、魔法の能力に関しては、まあ自分でも自負していたし、それを見込んでくれたことは、絶望の暗闇に、一条の光さえさしたような気がして
(結局、必要だったのはわたしの『力』。だけどそれは……)
 その腕を買われて……だからわたしは、わたしの力は、命を奪うためのものでしかないから、暗殺者になった。
 それでも、必要とされたからわたしはあの人に従った。
 従ってしまった
 それはどうしようもない真実
 真実からもぎとるもの
 なんて
 こんなに小さなものに過ぎなかったのに

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