――答えはたぶん、わたしの中に。

「『彼女』はどうなるの?」
 興味なんてないんだろう。どちらかといえば、いらついたようにさえ聞こえる声。
「たぶん……あまりいい待遇は待っていない。少なくとも、ここにはもういられない」
 というより……考えることも、恐ろしい。
 弱いから集ったのに。その中で和を乱したら、どんな目にあうだろう。……原因は、わたしなのに。
「君が原因なのに?」
 責める口調ではなかったけど、わたしにはそう聞こえる。
「そうだ」
 少しの間の沈黙。
 彼は……笑った? 何故? いや……その方が彼らしい反応なのか。
「どこもそんなものだね……まあ、ボクたちもここにはもういられないだろうけど」
「追い出される前に逃げるほうがいい」
 もともと、そのつもりだったんだ。『蟲』は現れるし、わたしは襲われるしで、それが少し遅れただけ。
 しかし……追い出されるだけならまだいいが。いや、まてよ? 彼だけなら……
「ボクだけなら……とかいうつもりじゃないだろうね?」
 どきり、と心臓が跳ね上がる。一瞬、彼は人の心が読めるのかとさえ思ってしまう。
 次に何を言うべきだろう。少し悩んでいるところに、彼は続ける。
「離れる気なんてないよ? 少なくとも今は離れる理由がまだないし、君のそばにいるほうが安全だと判断した」
「安全?」
 どういう、意味だ。『わたしが』襲われたというのに。しかもその、襲われた理由は――
「人は怖いなら輪の中から外れればいい。いままでそうしてきたように。まあ、外れきることもできないけれど」
 意味が良くわからない。確かに、わたしたちは、どうあがいたって、一人でなんて生きてはいけない。それは、痛いほどよくわかっているけれど。
「外れ物どうしで固まっていろ、ということか?」
 足りないものを、補い合うというよりは、何かの隙間を埋めるように? いや、もっと言うなら――ただ、お互いの傷を、舐めあうように。けれど、返ってきたのはもっと現実的な答えだった。
「違うよ。『蟲』のせいだ。君がいれば、ある程度のものは追い払えるし、危険なものから逃げられる確率も高くなる。うまくいけば、今回のように収入も入るしね。どこへ旅をするにせよ、これから付きまといそうだから」
 金属音。硬貨の触れ合う音。
「私を雇うか?」
 いつだったかにも、こんなやつがいた気がする。理想を振りかざす、やたらめったら甘ったるい言葉はロウとは似ても似つかなかったけれど。それでもわたしは彼を――
「それも違う。そうだね、たぶんそれでも――」
 少し、声がやさしくなる。何かの、前触れのように。
「そばにいたい、それだけなのかも」
 ああ、時が止まってしまいそうなのは、こんな瞬間なのか。
 それで? わたしは一体、どうしたいというのだろう。どうなってほしいというのだろう。
 わたしの
 内なる宇宙
 だけがそれを知っている。

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