――永遠なんて、あるわけがない。

 突如として、世界は崩れ去る。
 その感覚を、人生でこんなに何度も味わうことになるなんて、思ってもいなかった。
「――――!!」
 一番、聞きたくなかった言葉。
 おぞましささえ覚えるけれど、それは事実。
 早口で、よく聞こえなかったけど。
 一番肝心な部分は聞こえた。
「危ない!!」
 ロウの声だ。
 彼は、この言葉を『聞いた』?
 いいや、わたしでさえ良く聞き取れなかったんだ、彼には『聞き取れ』るはずもない。
 そして、そんな思考をするよりもはるかに早く、体のほうが自然に反応していた。
 たぶん刃物を持っている。でも――そんな扱い方じゃ、駄目だ。
 突進してきたその身をひらりとかわす。かわすと同時に肘鉄を撃つ。急所に入ったかどうかはわからないけど、手ごたえはあった。相手の戦力をそぐのにはそれでも十分だ。そのまま回転する勢いと体のばねを加えて、組んだ手をほどいてもう一発。手の甲があたった感触。あわせて、その服のどこかをつかむ。そのあとに、金属音。床に落ちた音だ。音の方向を探しながら、足を払う。固い感触。そのまま、この手とは反対方向へ蹴り払う。相手の体を引き寄せて、そのまま投げ落とす。
 たぶん、みている側にはそんな動作も一瞬の出来事だったろう。わたしにとっても、その瞬間、思考と動作は同時にあった。
 魔力が発動するときの感覚。わたしじゃない。
 悲鳴。
 女の声だ。さっき上がった声や、相手と組んだ感覚からして、私を襲ってきたのは女性だったのだろう。それも、若い。
「大丈夫か?」
 ツァルの声。さっきの魔力の発動は、彼のものだろうか。
 彼の能力は――確か、『電撃』。あまり、強いものではないがこれだけの至近距離で発動すれば、私を襲ってきたその女も身動きは取れないだろう。
 首をひとつ縦に振って肯定をあらわす。あらゆる言葉が、もどかしい。
 ……ロウの声が、聞きたい。

 永遠に等しい時間にさえ思った。怖くて怖くてたまらなかった。
 光を失った、その事実を突きつけられたときよりも。
「大丈夫?」
 なぜだろう、いつものように声から表情が読めない。私が混乱しているせい? いや……
 ああ、なんだ、いつもはわざと声色を強調してつけているのか。私が、彼に向けてしゃべるときみたいに。
「問題ない。むしろ、彼女のほうが今は動けないんじゃないのか?」
 心配されたくない。構ってほしくない。なのに……離れてほしくも、ない。
 自分は、こんなにわがままな人間だっただろうか。
「みたいだね。精神的にも混乱していた様子だったようだけど、今は意識を失っているらしい。まあ、すぐに目はさめると想うけどね、あの様子なら」
「そうか」
 わずかな安堵。わざとらしく、それを見せつける。
「あの時、彼女がなんと叫んでいたかわかるか?」
 切り出すのなら――私からだろう。彼は、干渉する気なんてないだろうから。
「さぁ? 急なことだったし早口だったし、何よりスーラの言葉のようだったからよくわからないや」
 軽い口調。真実か否かはまた誤魔化される。
「――ひとごろし」
 言葉の一つ一つが重たい。唇を動かすというのは、こんなにも疲労困憊する作業だっただろうか。
「『人殺しの魔女め。お父様の仇』。たぶん、そういっていた」
 まるで、空気が凍りついたような沈黙。
 それでも、
 今までのこの日々がずっと続けと願っていた。
 それが私の
 精神の源
 でさえあった。

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