042.進もうとしている道
――困難である、それだけは確かだ。
いつまでも、ここにはいられない。ツァルまでいたんだ、わたしのことを知っている郷里の人間が現れたっておかしくない。
わたしもロウも、本当に、お互い行く気はあるのだろうか。
けれど、どこへ行こうというのだろう。
UTOPIA。名づけたのは『理想郷』。そんなもの、多分、たどり着けない。
救いなんでどこにもないし、自分に救われる価値もない。
けれど、ただ一箇所にずっと留まることも、まして郷里に帰るなんてこと、わたしにはできない。それだけのことだ。
「メクラ」
わたしのことをそう呼ぶのはただ一人だけ。でも……そう呼ばれることが一番安堵するのはなぜだろう。
「わたしは……」
言葉が続けられない。何を、何を彼に対して言えばいい?
何を言っても言い訳になりそうで焦ってしまう。
「どうしたものかなぁ、ツァルっていったっけ、彼とちょっとそりが合わなくてねぇ」
呑気な口調。……いや、それともわざと?
「クラムには悪いけど、」
そこでいったん言葉が途切れる。彼の顔の距離が近くなったことに、ひとつ鼓動が跳ね上がる。わたしは、何を馬鹿なことを思っている?
「ここを去ったほうがいい。なるべく早く」
耳打ちされた。
I see.
そう『言う』かわりにひとつうなずく。
「あれ、もしかして気づいてる?」
直感と……たぶん、わたしに対する視線。それが、故郷を追われたただの『メクラ』に対する同情と蔑視にしては……少し異なることに、彼は気づいたのだろう。相変わらずいやなところで勘のいいやつだ。おまけに人の表情をよく読む。
「わたしを誰だと思っているんだ?」
だから、そう言って、に、といたずらっぽく微笑んでみせる。なぜか、悔しかったから。
「ただの『メクラ』。ボクにとってはそれで十分」
ああ、本当にいやなやつ。わたしの望む答えを、そのままに。
「早く発とう。できれば、今すぐにでも」
「ああ」
そう、今すぐにでも。荷物はろくに持ってない。持っていくならこの身ひとつで十分だ。
だから、振り返る必要はない。歩き出す。
それでもこれがわたしたちが
進もうとしている道
なのだから仕方ない。
――でも、その一歩を踏み出すことは断たれてしまった。
「大変だ!『蟲』が現れた!! 襲われる!!」
その、いやな叫びに。