――困難である、それだけは確かだ。

 いつまでも、ここにはいられない。ツァルまでいたんだ、わたしのことを知っている郷里の人間が現れたっておかしくない。
 わたしもロウも、本当に、お互い行く気はあるのだろうか。
 けれど、どこへ行こうというのだろう。
 UTOPIA。名づけたのは『理想郷』。そんなもの、多分、たどり着けない。
 救いなんでどこにもないし、自分に救われる価値もない。
 けれど、ただ一箇所にずっと留まることも、まして郷里に帰るなんてこと、わたしにはできない。それだけのことだ。
「メクラ」
 わたしのことをそう呼ぶのはただ一人だけ。でも……そう呼ばれることが一番安堵するのはなぜだろう。
「わたしは……」
 言葉が続けられない。何を、何を彼に対して言えばいい?
 何を言っても言い訳になりそうで焦ってしまう。
「どうしたものかなぁ、ツァルっていったっけ、彼とちょっとそりが合わなくてねぇ」
 呑気な口調。……いや、それともわざと?
「クラムには悪いけど、」
 そこでいったん言葉が途切れる。彼の顔の距離が近くなったことに、ひとつ鼓動が跳ね上がる。わたしは、何を馬鹿なことを思っている?
「ここを去ったほうがいい。なるべく早く」
 耳打ちされた。
 I see.
 そう『言う』かわりにひとつうなずく。
「あれ、もしかして気づいてる?」
 直感と……たぶん、わたしに対する視線。それが、故郷を追われたただの『メクラ』に対する同情と蔑視にしては……少し異なることに、彼は気づいたのだろう。相変わらずいやなところで勘のいいやつだ。おまけに人の表情をよく読む。
「わたしを誰だと思っているんだ?」
 だから、そう言って、に、といたずらっぽく微笑んでみせる。なぜか、悔しかったから。
「ただの『メクラ』。ボクにとってはそれで十分」
 ああ、本当にいやなやつ。わたしの望む答えを、そのままに。
「早く発とう。できれば、今すぐにでも」
「ああ」
 そう、今すぐにでも。荷物はろくに持ってない。持っていくならこの身ひとつで十分だ。
 だから、振り返る必要はない。歩き出す。
 それでもこれがわたしたちが
 進もうとしている道
 なのだから仕方ない。

 ――でも、その一歩を踏み出すことは断たれてしまった。
「大変だ!『蟲』が現れた!! 襲われる!!」
 その、いやな叫びに。

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