――等価交換、だ。

 そう、あれはたしか、ボクが道端のイール弾きの『音楽』に、眼を奪われていたときのこと。
 帰りがけだったか、それともついた宿の部屋でだったか、状況については忘れてしまったが、イール弾きのことについて、彼女は語った。
 あれは、神をたたえる言葉を伝える音楽なのだ、と。
 イール弾きの音楽は、もともとは聖典を音楽にして語り伝えるものらしい。
 それはのちに世俗化されてしまって、いまではあんな道端で弾くような音楽になっているのだと。
 そして、彼女は、イール弾きの語る言葉のひとつひとつを、ボクにもわかる言葉でゆっくりとひとつひとつ発音した。
 節くらいはつけて発音していたのかもしれないが、よくわからない。
 なるほど、聖典をもっと噛み砕いたような言葉で説明したり、人間的なエピソードが盛り込まれていたり。英雄譚みたいなのもあった。
 その詩を自分の中で描いていたら――
 何故だろう、不意に、涙さえ流れてきた。
 信じる神様だって違う。住んできた世界だって違う。
 それなのに、そう思ったのだ。
 そこには、とても純粋な愛がある。
 意外に、宗教の本質的な部分にはそんなものが流れているらしい。
 節もメロディも、知りたかったけれど、どうでもいい。
 ボクの中の空っぽの部分に、何かが満たされてゆくような感覚。
 大丈夫。ボクは後悔などしていない。そのおかげで君にであえて、こんな旅をしているのだから。
 ずっと、ずっと望んできたものに、
 報酬を支払う
 それだけのことをしただけのこと。
 だからこの耳は、ほかでもない、ボクのせい。

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