――『みてみたいもの』が、またひとつ増えた

 どこでそんなことを知ったのだったっけ。
 たぶん、また、彼が語ったことに変わりはないと思うのだけれど。
 どうやら、わたしたちの体は、海とほとんど同じ成分でできているらしい。
 大半が水で、あとは塩だの炭だのと似たようなもの。こむずかしい元素の名前もあった気がしたが忘れてしまった。
 たしかに、人は生まれる前から母親のおなかの中で、羊水の中に浸かってる。なるほど、海というのはあんなものでできているのか。そう思うとかえって気持ち悪い。
 あんなものが集まって、あおく見えるというのならばなお不思議だ。
 そう、わたしが育ったのは、はるか遠くの砂漠の地。
 だからと言うわけでもないけど、ときどきわたしは、自分が砂の中から生まれてきたような幻想さえ抱く。
 わたしの体は死んだ砂でできていて、
 死んだ蟲たちのかけらが砕けてできた砂でできていて、
 ほんの一時、わたしというかたちをかたちづくって。
 だけど。
 それは死んだ砂だから、
 まわりを壊して、殺して、滅ぼしてしまう。
 そんな、不思議で不気味な幻想を不意に抱いてしまうのだ。

 水は、
 海は、
 命を与えて、そして奪うもの。
 あるときは穏やかで友好的。
 あるときはしけて、悪意に満ちている。
 すべてを包み込んで、受け入れることのやさしさと恐ろしさ。
 わたしにはその特性を同時にもつということが、いまいち、想像することができない。
 人は、海のようなもの
 けれど、わたしは海を見たことはない。

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