――わたしの連れは、耳が聞こえない。

 彼が、どんな理屈でそんな事態に陥ったかは知らない。
 わたしに想像できるのは、
 彼がユパによくいる成金の(家柄自体はたいしたことはないが、金ならうなるようにあった、と彼は言った)家に生まれたということ、
 おそらく彼は何がしかの楽器を小さいころからたしなんでいたこと(このことにはまだ彼へ確認してみたことはない)、
 たぶん、それが彼にとって、すごく核心の触れると柔らかすぎて痛い部分につながっているのだろうということ、
 それから、あれで意外にも剣術ができること(護身用のものだと彼は言っていた)、
 といってもあの程度の剣術ならばわたしに言わせるとそこまでの腕でもないが、弓術ならむしろ得意なくらいで、わたしでさえ感銘を受けるほどのものであること、
 彼には魔法の属性もなく、その知識に関しては疎いこと、
 けれど、たぶん小さいころからかなりの秀才、いやおそらくは天才と呼ばれていただろうということ、
 その中でもとくに科学――物理学と数学に関する知識はきっと深いのだろうということ、
 彼のホントの名前はそんなに変わったものではないこと、
 『それ』を見つけようということを提案したのは彼で、
 そして、そんな彼がわたしとともに、こんな旅をしているということ。
 そして、だけど
 今いちばん大切で
 わたしが彼のことについて特記すべきことは
 彼の耳は聞こえない
 そのこと。
 だから、彼は『ロウ』なのだ。
 そこには、どんな理由がひそんでいるのか知らないけれど、
 ロウ、大事なのは
 大切なのは、あなた自身が気にしないこと。
 どんな理由がそこにあれ、今の事象に変わりはないのだから。

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