011.温度のバランス
――わたしが生まれたのは、はるか遠くの砂漠の町。
すこしだけ、わたしのことについてを話してみようと思う。
吹き荒れる砂嵐。
ビックリするくらいの昼と夜の気温差。
実際には戒律のためというより、それを防ぐためのストールをまく女性たち。
そして……蟲たちの大群。
わたしが生まれたのは、はるか遠くの砂漠の町。
わたしにとってはそれがすべてで、それが世界だと思っていた時期もあった。
だから、一度思ったことがある。
世界というのは、なんと生きにくい場所なのだろう、と。
わたしは今、たぶん、南を目指している。
楽園を、UTOPIAを探してる。
なぜ、と問われても困るのだけど。
逃げるんだったら、そのほうがいいからかもしれない。
どうも、凍てつく大地というものの想像がつかない。
右、左。
杖をついて、足元に広がる世界を確かめる。
わたしの世界に、光はない。
かつてはあったけれど、消えてしまった。
だから、この、杖からの感覚と、反射してくる音の方向が、わたしの眼の代わり。
それだけを頼りに、わたしは歩をすすめる。
まわりからは、声が聞こえる。
わたしは、誰からも声をかけられない。
きっと、どう声をかけていいかもわからないし、関わりたくないんだろう。
……そう、積極的な無視を行っている。それがわかると、思わず笑ってしまう。
わたしとしても、そのほうがありがたい。
人と関わる。そのこと自体が、どうも苦手なのだ。
これはたぶん、わたしが『メクラ』になる以前から、続いていたことのような気がする。
あるとき不意に、わたしが気づいたのは。
砂漠の夜の冷たさも、昼の熱さも、すべての命を奪おうとするそんな気候でさえも。
人間関係の熱さや冷たさに比べれば、どうってことはないということ。
あれほど熱しやすくて冷めやすいものはないと思う。
だから、わたしは人と関わることに、積極的に距離をおくようになった。
温度のバランス
それを見極めることが大事。
そう、戒めてさえいればいい。
……それでも、わたしは誰かと関わることを熱烈の望んでいたとしても、わたしの孤独を埋めるものを渇望していたとしても。