――わたしが生まれたのは、はるか遠くの砂漠の町。

 すこしだけ、わたしのことについてを話してみようと思う。
 吹き荒れる砂嵐。
 ビックリするくらいの昼と夜の気温差。
 実際には戒律のためというより、それを防ぐためのストールをまく女性たち。
 そして……蟲たちの大群。
 わたしが生まれたのは、はるか遠くの砂漠の町。
 わたしにとってはそれがすべてで、それが世界だと思っていた時期もあった。
 だから、一度思ったことがある。
 世界というのは、なんと生きにくい場所なのだろう、と。
 わたしは今、たぶん、南を目指している。
 楽園を、UTOPIAを探してる。
 なぜ、と問われても困るのだけど。
 逃げるんだったら、そのほうがいいからかもしれない。
 どうも、凍てつく大地というものの想像がつかない。
 右、左。
 杖をついて、足元に広がる世界を確かめる。
 わたしの世界に、光はない。
 かつてはあったけれど、消えてしまった。
 だから、この、杖からの感覚と、反射してくる音の方向が、わたしの眼の代わり。
 それだけを頼りに、わたしは歩をすすめる。
 まわりからは、声が聞こえる。
 わたしは、誰からも声をかけられない。
 きっと、どう声をかけていいかもわからないし、関わりたくないんだろう。
 ……そう、積極的な無視を行っている。それがわかると、思わず笑ってしまう。
 わたしとしても、そのほうがありがたい。
 人と関わる。そのこと自体が、どうも苦手なのだ。
 これはたぶん、わたしが『メクラ』になる以前から、続いていたことのような気がする。
 あるとき不意に、わたしが気づいたのは。
 砂漠の夜の冷たさも、昼の熱さも、すべての命を奪おうとするそんな気候でさえも。
 人間関係の熱さや冷たさに比べれば、どうってことはないということ。
 あれほど熱しやすくて冷めやすいものはないと思う。
 だから、わたしは人と関わることに、積極的に距離をおくようになった。
 温度のバランス
 それを見極めることが大事。
 そう、戒めてさえいればいい。
 ……それでも、わたしは誰かと関わることを熱烈の望んでいたとしても、わたしの孤独を埋めるものを渇望していたとしても。

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