<浦島太郎>

浦島太郎 配役

浦島太郎:斎木健太
亀:アン=ノーン
乙姫:アリエラ=メディエ
子供:水本修羅
魚達:御使愛熾、漣・ミューズ・清、浅葱遥、望月緋夕、東上條薫、中山正巳
通りすがり:館村文則
ナレーション:銀眼、松原葵


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葵「……袖、準備出来たか? じゃあ始めるぞ」
銀眼「今回の演目は『浦島太郎』、ナレーションは俺と」
葵「松原葵です」
銀眼「昔々、ある所に浦島太郎という心優しい青年の漁師がおりました」
葵「ある日、浦島太郎は浜辺で亀が子供にいじめられているのを見つけます……っておい、あれ」

 浜辺で向かい合う少女と亀。少女は怒りに眉を吊り上げ、亀は真意の読めない軽薄な笑みを浮かべている。波も穏やかな昼下がりなのに、暗闇を走る稲妻が背後に見えそうだ……

銀眼「……もしかすると、亀と女子高生が対等に渡り合っているように見えるかもね」
葵「突っ込む所そこじゃないだろ。あの着ぐるみ、どこからどう見ても特撮のアレだろうが」
銀眼「あぁ、でも気にしている暇はないみたいだよ。……浦島太郎が来た」

健太「いきなり雰囲気険悪だなぁ、こりゃ……ほら、二人とも抑えて抑えて」
アン「Oh! 健太サン、ワタシを助けに来てくれたんデスね!」
修羅「ケンタ先輩……すいませんけど、下がってて下さい。これは私達の問題なんで」
健太「頼むからそう言うなよ。ここは先輩である俺の顔を立てると思って、な?」
修羅「先輩……けど」
アン「目上の人は敬うのガ、ニッポンのシタキリ、サムライのココロイキですヨ? 修羅サン」
修羅「あんたにそんな事言われる筋合いないわよ! 大体したきりじゃなくて仕来り……」
健太「落ち着けって。オネーサンも、あんたが言うと余計波風立つから、大人しくしといて」
アン「ハァイ」
健太「とにかくだ。今回は俺に任せて我慢してくれ。頼むぜ?」
修羅「駄目です、この件ばかりは私でないと」

葵「……普通、浦島太郎が出て来たら子供は退散するんじゃないのか?」
銀眼「事情が変わったんだよ。ほら、『役者の意見を取り入れるのも重要だ』って誰か言ってたし」
葵「誰だよ、言ったの」

健太「やたら食い下がるなぁ、何かあったのか?」
修羅「それは……」
アン「じぇらしぃデスカ?」
修羅「違う!」
健太「おぉい、だからさ」

 ぴんぽんぱんぽーん。水本修羅さん、水本修羅さん。理事長室まで来て下さい。繰り返します……

修羅「……えっ?」
健太「理事長室って……何かやったのか? と言うか、実際やってるよな。校内ローラーで暴走」
修羅「まさか! それで私が呼び出される筈は……」

 水本修羅さんは至急理事長室まで……

アン「ハヤク行かないと、ホームでパパに怒られちまいマスよ?」

 繰り返します……

修羅「うっさいわね! 行けば良いんでしょー!? ケンタ先輩! その女に気を付けて下さいってか今すぐにでも離れて下さい! 良いですねー!?」

葵「お前声色使ってまであんな嘘……良いのか?」
銀眼「(マイクを持ったまま笑顔)」
葵「……もう良いや、この機に乗じて進めるぞ。亀をいじめていた子供は帰って行きました。するといじめられていた亀が、浦島太郎にこう言いました」

アン「助カリました。健太サンは命の恩人デス!」
セサミ「ごまごままー!」
健太「そりゃどうも……って、え?」
アン「ドウカしましたか?」
セサミ「ごま?」
健太「……小さくて白くて背中に緑色の甲羅をしょった亀が増えてるように見えるんだが」
アン「Aha? ……はっ、ま、マサカこれがジャパニーズジョーク、ニッポンの心、ボケの精神!?」
セサミ「ごま!?」
健太「……真面目に突っ込んでる筈なのに何でこっちがボケに解釈されるんだ?」
アン「そう言えバ、ボケにはツッコーミで合ワセないと! エイッ(べしっ)」
健太「オネーサン、それ突っ込みじゃねーよ、手が逆」
アン「ソウなんデスカ?」
健太「こっちの、手の甲の方でな、こうやって肩を叩くんだよ」
アン「Oh! コレがジャパニーズツッコーミ!? ブラボー!」
健太「……ブラボーって、英語じゃねーよな? 確か」
セサミ「……ごま?」
アン「フゥ、勉強になりマシタ。お礼に、健太サンを竜宮城に案内しマス。付いて来て下サーイ」

葵「お礼の理由が間違ってるだろうが」
銀眼「いや、ここでそれ指摘したら話が進まなくなるから」

健太「ってか、ガ○ラって泳げるのか?」
アン「無問題デース。ゴ○ラだって空を飛べる位ですカラ、巨大怪獣に不可能はアリマセン」

葵「……本当か?」
銀眼「本当らしいよ。太郎が亀の背中に乗ると、亀は海へ潜って行きました。不思議な事に、海の中でも息をする事が出来ます」
葵「海の中を進んで行くと、珊瑚に囲まれた美しい御殿が見えて来ました」

アリエラ「いらっしゃいませー♪」
セサミ「ごままー!」
アリエラ「あっ、セサミおかえりー!」
健太「お、似合ってんじゃん。七五三か?」
アリエラ「ぶー。七五三じゃないもん、おとひめさまだもん。かわいい?」
健太「おー、可愛い可愛い」
アリエラ「えへへーっ」

葵「あのキャスティングの意図は?」
銀眼「本人の立候補。他の乙姫候補が逃げたから」
葵「他の候補って……」
銀眼「斎木廉也」
葵「……(絶句)」

アリエラ「わたくしは、おとひめともうします。このたびは、けらいのカメをたすけていただいて、ほんとうにありがとうございました。どうぞ、ごゆっくりなさってください」

銀眼「太郎が竜宮城の中に入ると、見た事もないようなご馳走が用意されていました。乙姫様が隣に座って、太郎にお酌をしてくれます」

健太「っても、乙姫がお子様だから、内容はお菓子とジュースだけどな」
アリエラ「はいどうぞ♪」
健太「お、さんきゅー」

葵「太郎の周りに色とりどりの魚が集まって、美しい音楽を披露してくれます……踊りの筈では?」
銀眼「今回は、そっちの方がキャスティングし易かったから」

緋夕「えっと、俺こっちにいて良いのか?」

銀眼「だって、伴奏出来るんだろう?」

緋夕「……何で知ってるのかは敢えて突っ込まない方が良いのかな、この場合」
正巳「ピアノ2台で一緒に弾くなんて初めてだなー。楽しみ」
薫「楽器3人に対し歌う人間が3人……バランスは考慮しなくて良いのだろうか?」
正巳「弾きながら歌えば?」
薫「フルートでは無理だ」
正巳「じゃあうちと、えっと、あんさん名前何?」
緋夕「望月緋夕だ。弾き語りやるのか?」
正巳「そうそう」
緋夕「微妙に不安が残るが……何とかなるかな」
漣「それじゃあ、何を歌いましょうか?」
遥「えっと……皆が知ってる物の方が……」
薫「全員が知っていそうな合唱曲となると、大地讃頌等だろうか」
漣「けれど、ここは海だし……舞台に合う歌はないかしら?」
緋夕「海……寒ブリのうたとかか?(笑)」
愛熾「えっ……何ソレ」
薫「全員が知っているかどうかの時点で無理があるだろうね」

銀眼「何か、揉めてるね?」
葵「何か知らんが事前に色々不幸があって、打ち合わせ出来なかったらしい」
銀眼「あぁ、成程。演奏中は無事だと良いね」
葵「無事に終わるようにしてやれば?(鋭い視線)」
銀眼「今回は何もしなくても大丈夫だよ。無敵の乙姫様がいるからね」

遥「……あ、あの」
愛熾「何か案あるの?」
遥「童謡とかなら……うーみーはーひろーいーなーおおきーいーなー、とか」
正巳「あ、そっか。浦島太郎も歌になってはるやん」
漣「むかしむかし 浦島は 助けた亀に連れられて 竜宮城へ行く前に 息が出来なく死んじゃった♪」
一同「……はい?」
漣「確か、こう言う歌詞よね?」
緋夕「違う。日本童謡界の名誉に懸けて誓っても良い。違う」
漣「あら、そうだったの? 日本に来る前に教えてもらったのだけど……」
愛熾「多分ふざけて替え歌を教えたんでしょうね、その人」
正巳「でも、皆で替え歌ってのも面白そうだよ?」
緋夕「歌だけとは言え、主役殺すのはまずいだろ」
薫「僕からも良いだろうか。フルートで浦島太郎は精神的にかなりやりづらい」
愛熾「じゃあ、海の方で良いんじゃない?」
緋夕「んじゃ決定、で良いのか?」
漣「そうね。時間も押しているし、始めましょうか」

葵「ようやく始まったか」
銀眼「こうして、太郎は夢見心地で日々を過ごしました」

健太「時間押してるって今何時……げっ、もうこんな時間か?」
アリエラ「どしたのー?」
健太「携帯圏外だよな、海の底だし……晩飯までに帰らねーと」
アリエラ「えーっ、もうかえっちゃうの!?」
健太「そう言ってもなぁ……繭の事も心配だし」
愛熾「本音が出たわね」
健太「いっ、いや、別にそう言う訳では」
アリエラ「……ほんとにかえっちゃうの?」
健太「あー、あー……また来てやるから」
アリエラ「ほんと!?」
健太「もちろん」
アリエラ「ぜったい!?」
健太「あぁ」
アリエラ「じゃあゆびきりね!」
健太「……ゆ、指切り?」
アリエラ「そーだよ、ほらっ」
健太&アリエラ「ゆーびきーりげーんまん、うっそつーいたらはーりせーんぼんのーます、ゆーびきった!」
アリエラ「うそついたら、ほんとにのますからね」
健太「おいおい、本気か? こんな海の底で千本も用意出来ないだろ? 針なんか」
アリエラ「あれー」

 指差した先には、体長17、8cm程の魚が待機している……

葵「……ハリセンボン、か?」
銀眼「そのようだね。学名はDiodon holocanthus、温帯から熱帯の浅い岩礁域や珊瑚礁域に広く生息し、警戒時には体を膨らませ、体表におよそ300〜400ある棘を立てて身を守る習性がある。因みに、棘は鱗が変化した物で、フグに近い魚だがテトロドトキシン、いわゆるフグ毒は持っておらず、食用になる」
葵「飲めると思うか? と言うか、飲ますと思うか?」
銀眼「彼が約束を破らなければ良いのさ」
葵「……あぁ、そうか。約束破ったらそもそも飲ます機会がなくなるし、約束守れば飲まされないな。道理であんた落ち着いてる訳だ」
銀眼「そんな拷問染みた事やらせたくないしね」
葵「……本心か?」
銀眼「さぁ?」

健太「とにかく、早く帰らねーと。オネーサン、帰りの案内も頼めるか?」
アン「ガッテンショウチノスケでス!」
アリエラ「あっ、まっておにいちゃん」
健太「ん?」
アリエラ「これ」
健太「これが玉手箱って奴か」
アリエラ「おわかれするのはとてもさみしいですが、しかたがありません。このたまてばこをもっていってください。たまてばこには、わたしたちのしあわせがつまっています。なにがあっても、けっしてあけないでください」

銀眼「そして、乙姫様から玉手箱を受け取った太郎は、再びカメの背に乗りました」
葵「長台詞も一発だな、あの子。一言一句違わないし」
銀眼「あれが特技だからね」
葵「しかし、太郎が元の浜辺に戻って見ると、どこか様子が違います。家に戻って見ても、屋根も壁もぼろぼろで、家族も誰もいません」

健太「げっ、何だこれ……」
アン「絵に描いたようなアバラ屋ですネ。ココが健太サンのオタクですか?」
健太「カタカナ表記は誤解があるから止めとけオネーサン。おぉい、母ちゃーん? 繭? ユキ、どこ行った?」

銀眼「そこで太郎は、通りすがりの人に事情を聞く事にしました」

健太「お、ノリぴーじゃん」
文則「あ、斎木さん……じゃなくて、えーと、どちら様でしょう?」
健太「うわっ、脚本とは言えそんな他人行儀な」
文則「ご、ごめん」

葵「……浦島太郎は通りすがりの人に事情を聞く事にしました!」

健太「あー、この家に住んでた人達、どこ行ったか知らないか?」
文則「確か、浦島太郎と言う人は何十年も前に漁に出たきり戻らなかったそうです。もう一人の息子さんは独立して、娘さんはお嫁に行って、親御さんがお亡くなりになってから、この家には誰も住んでいませんよ」
健太「何だって!? 繭が嫁に行ったぁ!?」

葵「何で気にする所そこなんだよッ!」
銀眼「外伝が根本的にギャグだからかな」

健太「俺に一言の相談もなしにか!? 何でだ繭ーッ!」
文則「お、落ち着いて!」
健太「嫁入り先は!?」
文則「確か隣町のどこかに……」
健太「よしっ、待ってろよ、繭!」

葵「待ってろよ、じゃなくてあんたが待てッ! 主役が真っ先に舞台放棄してどうする! おいッ!」
銀眼「もう聞こえてないよ、あれは……こうして、浦島太郎は夕陽に、もとい、隣町に向かって走り去って行きましたとさ」

 玉手箱開けられないまま 終幕



ということで、熱に浮かれてリクってしまいました、Abyss外伝。やっぱり楽しいなぁ。そして改変版はやっぱり漣さんの強烈なボケに注目(笑)
立河楓夜様のサイトは『Reverse』です。


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