『らい』

 どうしろというのだろう

 そんなものを見せ付けられても
 私には六十年の歳月もなければ
 肉親との惜別もなければ
 根付いた故郷の風もない

 ましてや、
 ましてや命を賭して戦った病もその痕も

 だから
 私にそんな魂の叫びを投げつけるなどやめてくれ
 私にそれを受け止める力などない

 私はいたくちっぽけで
 そして卑怯な人間だ……
 あなたのその外見に
 あなたを恐ろしいとさえ思ってしまったことも
 また、事実なのだ

 ただ、あなたの言葉を聞くうちに
 あなたの外見に対する恐怖などすぐに薄れた
 けれど、かえって畏怖は深まった

 ――あなたは、何者なのだ?

 私はこんなに矮小で卑怯で、
 そんな自分を詠むことしかできない
 あなたの言葉を受け止めることも
 ましてや返すことなどできるわけもない

 長い病を戦ってきた
 会うこともなかろう一人の詩人に
 私は少し恐怖して
 そしてそれ以上の感銘を受けた



※ある元ハンセン病患者の詩人のドキュメンタリー所感

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