早春賦

 それでもまだ、風は冷たいけれど
 それでもまだ、氷を踏みしめて遊ぶ子供たちの笑顔は耐えないけれど
 それでもまだ、みかんはなくなりそうにないけど
 それでもまだ、どうしようもない位にこたつは愛しいけれど
 それでもまだ、石油は切らせないけど
 それでもまだ、朝起きるのはつらいけど
 それでもまだ、電車の座席のまどろみが……いとおしいのは一年じゅうか

 ああそう、兆しだ
 それは誰の元にも等しく訪れるものの、兆しだ
 現れ始めた、兆したちだ

 まだがんばり続けるものもいるけど
 受験生たちは朗報を届けはじめる

 まだそのの色は頼りなげだけど
 街路樹のつぼみはひとまわりふっくらしたように思う

 まだ、そういう意味では始まってほしくないんだけど
 そろそろ痒くなりだす目はパソコンのし過ぎだけが理由ではなさそうだし

 まだ、もうちょい寒さに乗じて甘えてきてほしいけど
 野良猫たちの毛並みがちょっとスマートに見えるのは生え変わりの時期だからか

 まだ、それは兆しでしかないけど
 それでも、誰の元にもいずれ春はやってくる
 そろそろ、暦のうえだけでなくじぶんが感じ取れるものとして
 せかるる胸の想いを満たさんとするほどに



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