秋桜

 秋に桜は咲かない。
 至極当り前の事だ。
 しかし、だからこそ、此のピンク色の花をそう呼ぶ事を彼女は気に入っていた。
 本物の桜の様な妖かしの力は、無いかもしれない。
「うん、でもね……私は……」
 少し哀しげな瞳だった、それは。
 サクラ。
 彼女の名だった。
「今度は、どんなに美しくともすぐに散ってしまうサクラじゃなくて、あんな野に咲く花のように……」
 白いベッドの上で、彼女は少し哀しげにそう呟いた。
 確かに、なんとぴったりだったのだろう。
 どんなに美しくとも。
 妖かしの力を持っていようとも。
 サクラは、すぐに散ってしまう……
「君は……幸せだった?」
 ――あなたに出逢えて本当によかった。
 笑顔で、彼女は謂ってくれた。
 ――初めて、未来が光り輝いて見えた……
 けれど、自分に出来た事は彼女と一緒に居る事だけ。ただ、それだけ……
「本当に、君のその未来は光り輝いていた……?」
 あと数ヶ月しか生きられないと宣告された、その命が……
「野に咲く花のように、か……」
 散りゆく桜を眺めながら。
 彼は、ふと呟いた。



※ストーリーの完成してない小説が載せられるというのはありがたいですね、しかし。桜、好きなんで結構書いちゃいます。

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