「終わりなどない」
老人は言った。
「憎しみに他者を討っても、また同じことが繰り返されるだけ」
戦いに、終わりなどない。あるとすればそれは――
「この手で、終わらせるしかないさ」
その不条理すべて、自分のうちに背負い込んで、
あとはひっそりと生きてゆく位しか。
彼は空を見つめる、
目を閉じる、
戦友を思い出す、
悲鳴を、
轟音を、
叫びを、
血の匂いを。
目を開ける、
再び戦友を思い出す――
「なぁ……、もう、やめにしないか?」
過去を、引き摺って生きるのは。
日差しは降り、風は吹く。
防砂林を通してのそれは厳しい自然の象徴であるにもかかわらず不思議とやわらかい。
この手で植えた苗がここまで大きくなったものか、
と、ふと感心する。
「木のほうがよっぽど賢いな」
人間は愚かだ。そして己もその人間だ……。
自分は、あの時いったい何人の人間を殺したのだ?
良くない夢を、見た後のような気分。
「なぁ……もう、やめにしないか?」
虚空に向けて、再び老人は呟く。
復讐をして、そしてどうなる?
わずかにあった、戦士としての己の誇りは?
彼は大きくひとつ吐息をつく。
犬のような獣がくうん、とひとつ声を鳴らす。
そして、
それきり彼は何も語らなかった。